「お金があれば幸せになれる」とよく言われます。
しかし、本当に年収が高ければ幸福度も比例して上がるのでしょうか?
経済学や心理学の研究では、
「一定の年収までは幸福度が上がるが、それを超えると必ずしも幸福度は向上しない」
と指摘されています。
本記事では、年収と幸福度の関係を詳しく検証し、私たちが豊かな人生を送るために必要な要素を考えてみます。
お金と幸福の関係を示す研究とは?
年収と幸福度の関係を研究した代表的なものに、ノーベル賞受賞者のダニエル・カーネマンとアンガス・ディートンの研究(2010年)があります。この研究では、年収が7万5000ドル(約1000万円)を超えると、幸福度がそれ以上大きく向上しないことが示されました。
この研究のポイントは、「一定の収入を得ると、日々の生活の満足度や感情的な幸福度はそれ以上向上しない」という点です。つまり、年収が1000万円でも5000万円でも、幸福度はさほど変わらない可能性があるのです。
収入が増えることで得られる「安心感」と「幸福感」
収入が増えることで、まず得られるのは経済的な安心感です。
- 毎月の生活費に困らない
- 急な出費(病気や事故)にも対応できる
- 老後資金の不安が減る
- 子どもの教育費を十分に確保できる
このように、一定の年収を超えると「生存の不安」が軽減され、安心感が増します。この安心感は幸福感にもつながるため、「お金があることで幸せになる」という考え方は一部正しいと言えます。
しかし、問題は「収入が一定額を超えたときに、それ以上の収入が幸福度にどれほど影響を与えるのか?」という点です。
高収入でも幸福度が上がらないケース
実際に高収入の人々が、必ずしも幸せとは限らない例も多くあります。その理由として、以下のような問題が挙げられます。
- 長時間労働や激務によるストレス
- 高収入を得る仕事ほど責任が重く、労働時間が長くなることが多い
- 仕事のプレッシャーが大きく、心の余裕がなくなる
- お金に対する価値観の変化
- 収入が増えると「もっと稼ぎたい」と思うようになり、満足感が減る
- 生活水準が上がると、それを維持するためにさらに多くのお金が必要になる(ラットレースに陥る)
- 人間関係の変化
- お金のために家族との時間が減る
- 友人や親戚との価値観の違いが生まれ、関係が悪化する
このように、「年収が高い=幸せ」とは限らず、収入が増えることで生じるストレスや生活の変化が幸福度に影響を与えることが分かります。
幸福度を高める「お金の使い方」とは?
年収が高くても幸福度が必ずしも上がらない理由は、「お金の使い方」による影響が大きいためです。幸福度を高めるための「お金の使い方」として、次のようなポイントが重要になります。
- 経験に投資する
- モノよりも旅行や趣味、家族との時間にお金を使う方が幸福度が上がるとされている
- 例えば、高級車を買うよりも、思い出に残る旅行にお金をかける方が満足度が高い
- 他人のためにお金を使う
- 自分のためだけでなく、寄付やプレゼント、ボランティアなどに使うことで幸福感が増す
- 研究でも「自分のためよりも他人のためにお金を使った方が幸福度が高い」ことが示されている
- 時間を買う
- お金を使って家事代行やタクシーを活用することで、自由な時間を確保できる
- 自分の好きなことに使える時間が増えることで、幸福度が向上する
お金がもたらす「安心感」と「ストレス」のバランスとは?
お金は生活を支える重要な要素であり、十分な収入があれば安心感を得られます。
しかし一方で、お金が原因でストレスを感じることも少なくありません。実際、お金に関する不安は人生の大きな悩みの一つであり、「お金がある=幸せ」と単純に言い切ることはできません。
では、お金はどのように安心感をもたらし、どのようにストレスを生み出すのでしょうか?
本記事では、お金と心のバランスについて詳しく考えてみます。
お金がもたらす安心感とは?
お金が十分にあると、次のような安心感が生まれます。
生活の安定が確保される
お金があれば、家賃・食費・光熱費・医療費といった基本的な生活費を心配する必要がなくなります。特に、収入が安定していると「来月の支払いができるだろうか?」といった不安から解放され、日々の精神的なストレスが軽減されます。
緊急時に備えられる
突然の病気や事故、失業などの不測の事態が起こったときに、貯金があれば冷静に対応できます。多くの人が「貯金がないことが一番の不安」と感じるのは、緊急時に頼るものがないことが精神的な負担になるからです。十分な資産があれば、万が一のときでも冷静に判断し、対処できる安心感が得られます。
選択肢が広がる
お金があると、人生の選択肢が増えます。例えば、働き方を選べる、好きな場所に住める、やりたいことに挑戦できるといった自由が手に入ります。「お金がないから○○できない」という制約が少なくなることで、精神的な余裕が生まれます。
老後の安心感
年齢を重ねると、「老後資金が足りるのか?」という不安が増します。しっかりと貯蓄や資産形成ができていれば、将来に対する漠然とした不安が軽減され、安心した生活を送ることができます。
お金が原因で生まれるストレスとは?
一方で、お金が増えたとしても、必ずしもストレスが減るわけではありません。
むしろ、お金があることがストレスの原因になるケースもあります。
収入を維持するプレッシャー
高収入の人ほど、「今の生活水準を維持しなければならない」というプレッシャーを感じやすくなります。例えば、昇進して給料が上がったものの、責任が増え、自由な時間が減ってしまうケースです。「高収入=幸福」と思われがちですが、その裏には大きなストレスがあることも忘れてはいけません。
生活水準の上昇によるプレッシャー
人間の欲望には「適応」という性質があり、収入が増えると生活水準も自然と上がってしまいます。たとえば、最初は一般的な賃貸住宅で満足していたのに、収入が増えると高級マンションに住みたくなる。結果的に、支出が増え、さらなる収入を求めるプレッシャーに苦しむことになります。
お金の管理によるストレス
お金が増えると、資産運用や税金対策など、考えるべきことが増えます。特に投資や不動産運用を行っている人は、金融市場の変動によるストレスを強く感じることがあります。「お金を守るためのストレス」が新たに生まれることもあるのです。
人間関係のトラブル
お金が絡むと、人間関係が変化することがあります。
たとえば、以下のような問題が考えられます。
- お金を貸してほしいと頼まれる
- 収入格差によって友人関係がギクシャクする
- 相続問題で家族間のトラブルが起きる
特に高収入になった人は、周囲との金銭感覚の違いによるストレスを感じやすくなります。
お金と心のバランスを取るためには?
お金による安心感とストレスのバランスを取るためには、いくつかのポイントを意識することが重要です。
お金のために生きるのではなく、お金を活かす
「もっとお金を稼がなければ」と考えると、際限なくプレッシャーを感じてしまいます。それよりも、現在の収入でどのように生活を充実させるかを考えることが大切です。お金は手段であり、目的ではありません。
生活水準を上げすぎない
収入が増えたからといって、すぐに生活水準を上げてしまうと、ストレスの原因になります。無理に贅沢をせず、適度な生活レベルを維持することで、精神的な安定を保つことができます。
資産運用をシンプルにする
お金が増えると、投資や運用に手を出したくなりますが、複雑な金融商品に手を出すと、管理のストレスが増えます。シンプルな資産運用を心がけることで、精神的な負担を減らせます。
人間関係を大切にする
お金が増えても、人とのつながりを大切にすることが幸福感を高める要素になります。特に家族や信頼できる友人との時間を大切にすることで、ストレスを軽減できます。
年収〇〇万円が幸福度のピーク?経済学が示す収入の限界点
「お金があれば幸せになれる」と考える人は多いですが、収入が増え続けても幸福度が上がり続けるわけではないことが、経済学や心理学の研究から明らかになっています。
では、具体的に年収いくらまで幸福度が上昇し、それを超えるとどのような影響があるのでしょうか? この記事では、収入と幸福の関係について詳しく解説します。
幸福度のピークは年収○○万円?
このテーマに関する有名な研究として、2021年に発表されたマシュー・キリングスワースの研究では、年収が増えるほど幸福度も上がり続けるという新たな結果が示されました。この研究はスマートフォンのアプリを利用し、日常の感情をリアルタイムで記録する方法を採用したことで、より精度が高いと考えられています。
このように、収入と幸福度の関係には諸説あるものの、一定の年収を超えると幸福度の上昇が鈍化するという点は、多くの研究で共通しています。
なぜ一定の年収を超えると幸福度が上がらなくなるのか?
幸福度のピークがある理由は、主に以下の4つの要因が関係しています。
生活の安定が確保されるから
ある程度の収入があれば、生活の基本的な支出(家賃、食費、医療費など)を十分にまかなえます。年収800万円~1000万円に達すると、日々の不安が軽減され、基本的な満足度がほぼ頭打ちになるため、それ以上の収入を得ても劇的に幸福度が上がるわけではありません。
時間の自由が制限されるから
高収入を得る仕事ほど、責任が重く、労働時間が長くなることが多いです。
- 長時間労働で家族との時間が減る
- 仕事のストレスが増える
- 精神的なプレッシャーが強くなる
このような要因が重なり、収入が増えても幸福度が低下することがあります。
比較の罠に陥るから
収入が増えると、周囲の人と比較する機会も増えます。
・「同僚より収入が少ないかも?」と気にする
・高収入の人と付き合うと、より贅沢な生活を求めてしまう
・満足する基準がどんどん高くなる
このように、「もっと稼がないと満足できない」と感じることで、幸福度が上がりにくくなるのです。
お金の管理が複雑になるから
高収入になると、税金や資産運用を考えなければならず、お金に関するストレスが増えます。
このように、「お金が増えることで新たな悩みが生まれる」ため、収入が幸福度に与える影響は限定的になるのです。
収入を幸福につなげるための考え方
収入が増えても幸福度が頭打ちになるなら、どうすれば本当の意味で豊かな生活を送れるのでしょうか? 以下の3つのポイントを意識すると、収入と幸福のバランスをうまく取ることができます。
時間を大切にする
お金が増えても自由な時間がなければ、幸福度は上がりません。
・仕事の負担を減らし、プライベートの時間を確保する
・時給換算で「割に合う仕事」を選ぶ
・お金を使って家事代行や移動時間の短縮を図る
時間を確保することで、収入に関わらず満足度の高い生活が実現できます。
お金を「経験」に使う
研究によると、高級なモノを買うよりも、旅行や趣味、友人との時間にお金を使う方が幸福度が向上しやすいとされています。
・家族旅行や趣味に投資する
・自己成長のための教育やスキルアップにお金を使う
・他人にプレゼントや寄付をする
このようなお金の使い方は、より長く満足感を得られることが分かっています。
収入よりも「幸福度の最適化」を意識する
「年収1000万円を目指す」よりも、「自分にとって最適なバランスはどこか?」を考えることが大切です。
・どの程度の収入があれば安心できるのか?
・仕事とプライベートのバランスをどう取るか?
・何のためにお金を使うのが一番幸せか?
これらを意識することで、収入を幸福につなげることができます。
まとめ
年収と幸福度の関係について、多くの研究では「一定の収入までは幸福度が向上するが、それを超えると必ずしも幸福度は上がらない」とされています。
ノーベル賞受賞者のカーネマンらの研究では、年収1000万円程度が幸福度のピークであると示されましたが、2021年の研究では「収入が増えるほど幸福度も上がる」とする異なる結果もあります。
収入が増えることで得られる最大のメリットは、経済的な安心感です。
生活費や老後資金の不安が軽減され、自由な選択肢が増えます。しかし、一方で高収入には長時間労働のストレスや生活水準の上昇によるプレッシャー、人間関係の変化といったデメリットも伴います。
そのため、単に収入を増やすことが幸福度向上の決定打とは限りません。
幸福度を高めるためには、収入の使い方が重要です。例えば、「経験に投資する」「時間を買う」「他人のためにお金を使う」といった使い方は、満足感を持続させやすいとされています。
また、「生活水準を上げすぎない」「資産運用をシンプルにする」「家族や友人との時間を大切にする」ことも、収入に依存せず幸福を維持するポイントとなります。
結局のところ、収入よりも「お金をどう活かすか」が重要です。
収入に振り回されず、自分にとって最適なバランスを考え、時間や経験、人間関係を大切にすることで、より豊かな人生を送ることができるでしょう。